うたプリ、藍ちゃんに滾りすぎて補完話を書いてしまいました。
サイトはちょっと無理なので、ブログに載せるという形で。
AllStarの知識がないとわかりにくい仕様ですので、ご注意を。
WinterBlossom、聞くたびに泣ける。・゜・(ノД`)・゜・。
サイトはちょっと無理なので、ブログに載せるという形で。
AllStarの知識がないとわかりにくい仕様ですので、ご注意を。
WinterBlossom、聞くたびに泣ける。・゜・(ノД`)・゜・。
「バイバイ、春歌…」
そう言ってボクはステージへと歩んでいった。
「ボクの全ての想いを込めて歌います。聴いてください」
ボクはこの歌を全身全霊で歌ってみせる。
曲が流れる。しっとりとしたバラードとは相反して、マイクを持つ僕の手には力が込もった。
この歌詞にはボクの春歌への想いが詰まってる。
この感情は彼女にだけ。
彼女がいたから、ボクはこの歌を歌うことができる。
たとえ、それでボク自身が止まってしまっても後悔はない。
ねぇ、春歌。
メモリーを失っても、今日のことは忘れない。
いや、春歌と過ごした日のことは忘れたくないんだ。
初めて出会った時のこと、マリンゼリーを食べた時のこと、君の看病、観覧車のこと、クリスマスライブ、水族館に行ったこと、海のこと、君に好きだって伝えたことも。
傷つけたことも、泣かせたこともたくさんある。
あの時は、なんで泣くのかとか、合理的じゃないことはわからなかったけど、今ならさ、君のこと、どうすれば良かったのかわかる気がするんだ。
ねえ、本当はもっと一緒にいたいんだよ。
君の全てが大好き。
ボクのことで泣いてくれるその涙も、花のような笑顔も、曲へ向かうその真剣な姿勢も。
春歌はドジだけどさ、そんなとこもボクはとっても好きなんだよ。
君のことを思うと、いつも心が温かくなる。
なのにさ、今日は、今はそうならないんだ。
ボクが泣きたく、なるんだよ。
ボクはずっと君のそばにいる。
見守ってる。
春歌、今も泣いてるかな。
最後にあの、屈託のない笑顔が見たかった、かな。
でもね、さっきも言ったけど、やっぱり泣いてても笑っててもボクは、七海春歌という存在が大好きなんだ。
君がいるだけで、良かった。
ああ、やばい。
リミットが……。
視界が霞んでる。
ちゃんと立ってられてるのかな。
それさえも、わからなくなってきた。
春歌。
春、歌。
もう一度、君の、元へ………。
「美風先輩っ」
春歌が叫ぶ。
くずおれる藍を座り込みつつも受け止める。
美風先輩、美風先輩、と何度も呼びかけるが返事がない。
不規則な呼吸をし、瞳に光はなかった。
もう、この時が来たのだ。
そう春歌は直感した。
春歌は藍の体を抱きしめる。
程なく、藍の呼吸も止まる。
ずっしりと重たくなった体。
ハッとして見た藍の顔は、固く目を瞑っていた。
そんな…。
藍の全ての機能が停止した。
その事実に、春歌はまた涙を流す。
すすり泣いて、春歌は強く強く、藍を抱きしめた。
「美風さん?!」
スタッフが声を上げる。
その声に気づいた者がちらほらと春歌と藍に近づく。
「美風さん?!どうしたんですか?!」
「っ大丈夫です!少し体調不良で、今、体力がなくなってるだけなんです」
春歌が咄嗟に言う。
「救急車呼ぶとか病院の手配はしたのかい?」
「え、あの、それは…」
「まだなんだったら、今からするよ」
スタッフはそう言って、携帯を取り出し始める。
ああどうしよう。
どうすればいいの?
春歌が混乱して、事態の収拾を収めることができなくなったその時。
「僕が行きます」
新たな声が飛び込む。
声の主は、やはり博士だった。
藍の機能停止を察知して駆けつけてくれたのだろう。
「なんですか、あなた?部外者は立ち入り禁止ですよ」
この場にそぐわない白衣とボサボサの頭、目の見えない瓶底の分厚い眼鏡。
怪しさを拭えぬその出で立ちにスタッフは警備員を呼んで、出て行ってもらおうと踏み出す。
「僕は、美風藍の保護者です」
「そんな嘘は通りませんよ。警察呼びますよ」
博士はおや、どうしよう、と軽い言葉を発する。
「あの、本当です!美風先輩のご親戚なんです!美風先輩をきちんと“家”まで送りますので…!」
思わず、春歌が口を出す。
お願いだから、早くこの場から…!
だんだん冷たくなる藍の手を握る。
博士は藍を背負う。
一瞬、博士の顔が曇った気がしたが、春歌は気づかぬふりをして、藍を背負う博士の横に着いてその場を後にした。
「藍は、止まってしまった」
「はい…」
博士がポツリと呟く。
春歌は下を向いて小さく頷いた。
「でも、良い歌だった。とても、とても」
「聴いて、らしたんですか?」
春歌は俯いた顔を上げて、博士を見つめる。
「ここにいなければ、こんなに早く藍を迎えに来られていないよ」
博士は少し苦笑しながら答えた。
藍は君のおかげで、感情をたくさん学んだ。
強く生きた。
藍を愛してくれて、ありがとう。
博士は語る。
愛音も…、と呟いたが、その後の言葉は音になることはなかった。
「君は、ここにいるんだ」
「私も、最後まで見届けさせて下さい!」
博士の所有する車まで着くと、博士は春歌にそう言った。
「君の曲が、藍のあの歌がどんな結果になったのか、きちんと君自身で見なさい。それは藍の望んだことだろう?」
そう言われ、思い出す。
全部の力でこの歌を歌う。
そして、君をデビューさせてみせる。
そう、藍は言っていた。
助手席に身を預け、眠る藍を春歌は見る。
また涙が溢れそうになったが、ぐっと堪えて、わかりました、と頷いた。
「行っておいで。藍は、君をずっと、見守ってるよ」
その博士の言葉にまた藍を思い出す。
今度こそ涙を堪えきれなくなって、春歌は博士と、眠る藍に頭を下げて、会場へと戻った。
さよなら、美風先輩。
また、きっと…。
WinterBlossomは最優秀賞をもらい、春歌はシャイニング事務所で美風藍のパートナーとして正式にデビューとなった。
そして、藍の姿も、博士や如月愛音と共に、消えた。
数日、春歌は自室にこもったままである。
曲作りに没頭しているのだ。
だって、曲を作らなければ、何かをしていなければ、藍を思い出す。
藍を思い出せば、涙が溢れる。
涙は溢れたまま、ずっと止まらなくなるのだ。
そんなある日、春歌は事務所の会議室に呼び出される。
仕事の話だろうか。
思考を曲作りへと結びつける。
無理やりにでもそう考えないと、暗いモノがやってくるような気がした。
会議室の前に着き、ドアをノックする。
「失礼します…」
会議室には藍とグループを組んだ、寿嶺二、黒崎蘭丸、カミュや、藍のマスターコースを受けた翔や那月、他にも音也やトキヤ、聖斗、レンなど同期の者がいた。
「あれ、皆さん…」
「あれれ、後輩ちゃんも呼ばれたの?」
「あ、はい」
このメンバーを集めて、何をするのだろうか。ふと先輩達三人を見る。
普段であればその場にいたであろうはずの人がいない、という事実がまた春歌の中に暗いモノを呼び込んだ。
程なく、シャイニング早乙女、日向龍也、月宮林檎が入室する。
内容は美風藍について。
どきりとしたが、できるだけ表情を変えずに聞く。
美風藍は海外へ留学し、芸能活動を休止するという。
いつ帰るかもわからないので、復帰は未定、とのこと。
当たり前ですよね。だって、美風先輩はロボットだってこと知っている者はほとんどいない。
突然で驚いている中、話はそのことだけであったようで、重役三人は春歌を心配そうに少しだけ見つめ、言うだけ言って出て行ってしまった。
一人、また一人と次の仕事や、予定がある者たちは会議室を出て行く。
皆、一様に春歌を気にかけていた。
「七海…」
「七海さん…」
座り続ける春歌に声をかけたのは、来栖翔と四之宮那月だった。
彼らは藍のことを知っている。
「藍、止まった、んだな…」
翔のその核心を付く一言に抑えていたものが止まらなくなった。
涙が溢れる。
「美風先輩、最後に、バイバイって……」
私、最後まで笑っていられなかった。
だけど、先輩は泣いても笑っても
大好きだって。
藍のこと、藍への想いを途切れながらも話す春歌を何かが包む。
那月が涙を流しながら、春歌を抱きしめていた。
次いで、二人を翔が抱きしめる。
事情を知る者同士だからだろうか、春歌は藍がいなくなって初めて大きな声を上げて、何を憚ることなく泣いた。
デビューが決まり、仕事がとても増えた。
翔や那月のおかげで幾らか普通に振る舞えるようになった。
暗いモノはまだ時折襲ってくるけれど、いつまでも笑えないようでは人間としてダメだ。
そう思って日常を過ごしている。
もうすぐ美風先輩のあの人魚の映画が封切りされる。
友人の友千香と共に見に行こうと話をしている。
数日後、友千香のオフに合わせて買い物に出た。
その先で聴いた先輩の歌声。
そして、女の子たちの声。
ねえ、先輩。私、今、いなくなってから初めて先輩のことを身近に感じることが出来ました。
これが、先輩の言ってた“いなくなっても、ずっと見守ってる”ってことですか?
携帯電話に着信が入る。
相手は事務所の社長、シャイニング早乙女であった。
仕事の要請で、内容は藍の映画、『人魚の涙』のスタッフへの先行上映をこれからやるので、スタッフロールに名を連ね、藍のパートナーである春歌が直々に確認してこい、ということだ。
友千香に予定のキャンセルへの申し訳なさを感じつつ、別れて、急いで試写会場に向かう。
会場に着くと、映画の作成中に世話になったスタッフたちへ挨拶をし、席に着く。
程なくして、映画が始まった。
久しぶりの藍はスクリーン越しだった。
それに少し切なくなるけれど、映画に集中しようと春歌は一層スクリーンを見つめた。
映画を観る一方で、やはり藍のことを思い出す。
短い期間だったのに、色々あった。
そして、好きになった。涙が溢れる。
視界がぼやけようがなんだろうが、藍のことを一瞬でも見逃したくなくて、目元を拭うこともせずにスクリーンを見つめ続けた。
人間になっていた人魚の王子はヒロインのために声を出して歌って、泡になって消えた。
そうして、切なく終わるはずだった。
なのに。
これは何だろう…?
モノクロで海が映されている。
え、こんなの、知らない。
春歌以外のスタッフも騒然としている。
徐々に波の音が聞こえ、海が色づく。
桜のような白い花びらが画面の至るところで舞っている。
そして、聞こえた声。
「ボクはここにいる。君はいま、どこにいるの?」
あぁ。聞き間違うはずがない愛おしい人の声。瞬間的に理解した。
春歌は会場を飛び出す。
行き先はあの、海。
映画の撮影期間中、何度となく行ったあの海。大切な思い出のあの海。
先輩。先輩。先輩。
はやる気持ちを抑えきれない。
早く、早く、早く!
海に、青い人影。
彼は海に向かって1人で歌っていた。
キラキラ光る波の前、歌う姿は正しく王子様。
どこまでもクリアな歌声はさざ波のように響き渡る。
曲は私と彼の大切な曲。
上がる息を必死で整える。
先輩。
「………会いにきました!」
そして、私は彼の腕に飛び込む。
神様、ありがとうございます。
彼との約束を守らせてくれて。
彼の腕の中で、私は幸せな気持ちをかみしめた。
そう言ってボクはステージへと歩んでいった。
「ボクの全ての想いを込めて歌います。聴いてください」
ボクはこの歌を全身全霊で歌ってみせる。
曲が流れる。しっとりとしたバラードとは相反して、マイクを持つ僕の手には力が込もった。
この歌詞にはボクの春歌への想いが詰まってる。
この感情は彼女にだけ。
彼女がいたから、ボクはこの歌を歌うことができる。
たとえ、それでボク自身が止まってしまっても後悔はない。
ねぇ、春歌。
メモリーを失っても、今日のことは忘れない。
いや、春歌と過ごした日のことは忘れたくないんだ。
初めて出会った時のこと、マリンゼリーを食べた時のこと、君の看病、観覧車のこと、クリスマスライブ、水族館に行ったこと、海のこと、君に好きだって伝えたことも。
傷つけたことも、泣かせたこともたくさんある。
あの時は、なんで泣くのかとか、合理的じゃないことはわからなかったけど、今ならさ、君のこと、どうすれば良かったのかわかる気がするんだ。
ねえ、本当はもっと一緒にいたいんだよ。
君の全てが大好き。
ボクのことで泣いてくれるその涙も、花のような笑顔も、曲へ向かうその真剣な姿勢も。
春歌はドジだけどさ、そんなとこもボクはとっても好きなんだよ。
君のことを思うと、いつも心が温かくなる。
なのにさ、今日は、今はそうならないんだ。
ボクが泣きたく、なるんだよ。
ボクはずっと君のそばにいる。
見守ってる。
春歌、今も泣いてるかな。
最後にあの、屈託のない笑顔が見たかった、かな。
でもね、さっきも言ったけど、やっぱり泣いてても笑っててもボクは、七海春歌という存在が大好きなんだ。
君がいるだけで、良かった。
ああ、やばい。
リミットが……。
視界が霞んでる。
ちゃんと立ってられてるのかな。
それさえも、わからなくなってきた。
春歌。
春、歌。
もう一度、君の、元へ………。
「美風先輩っ」
春歌が叫ぶ。
くずおれる藍を座り込みつつも受け止める。
美風先輩、美風先輩、と何度も呼びかけるが返事がない。
不規則な呼吸をし、瞳に光はなかった。
もう、この時が来たのだ。
そう春歌は直感した。
春歌は藍の体を抱きしめる。
程なく、藍の呼吸も止まる。
ずっしりと重たくなった体。
ハッとして見た藍の顔は、固く目を瞑っていた。
そんな…。
藍の全ての機能が停止した。
その事実に、春歌はまた涙を流す。
すすり泣いて、春歌は強く強く、藍を抱きしめた。
「美風さん?!」
スタッフが声を上げる。
その声に気づいた者がちらほらと春歌と藍に近づく。
「美風さん?!どうしたんですか?!」
「っ大丈夫です!少し体調不良で、今、体力がなくなってるだけなんです」
春歌が咄嗟に言う。
「救急車呼ぶとか病院の手配はしたのかい?」
「え、あの、それは…」
「まだなんだったら、今からするよ」
スタッフはそう言って、携帯を取り出し始める。
ああどうしよう。
どうすればいいの?
春歌が混乱して、事態の収拾を収めることができなくなったその時。
「僕が行きます」
新たな声が飛び込む。
声の主は、やはり博士だった。
藍の機能停止を察知して駆けつけてくれたのだろう。
「なんですか、あなた?部外者は立ち入り禁止ですよ」
この場にそぐわない白衣とボサボサの頭、目の見えない瓶底の分厚い眼鏡。
怪しさを拭えぬその出で立ちにスタッフは警備員を呼んで、出て行ってもらおうと踏み出す。
「僕は、美風藍の保護者です」
「そんな嘘は通りませんよ。警察呼びますよ」
博士はおや、どうしよう、と軽い言葉を発する。
「あの、本当です!美風先輩のご親戚なんです!美風先輩をきちんと“家”まで送りますので…!」
思わず、春歌が口を出す。
お願いだから、早くこの場から…!
だんだん冷たくなる藍の手を握る。
博士は藍を背負う。
一瞬、博士の顔が曇った気がしたが、春歌は気づかぬふりをして、藍を背負う博士の横に着いてその場を後にした。
「藍は、止まってしまった」
「はい…」
博士がポツリと呟く。
春歌は下を向いて小さく頷いた。
「でも、良い歌だった。とても、とても」
「聴いて、らしたんですか?」
春歌は俯いた顔を上げて、博士を見つめる。
「ここにいなければ、こんなに早く藍を迎えに来られていないよ」
博士は少し苦笑しながら答えた。
藍は君のおかげで、感情をたくさん学んだ。
強く生きた。
藍を愛してくれて、ありがとう。
博士は語る。
愛音も…、と呟いたが、その後の言葉は音になることはなかった。
「君は、ここにいるんだ」
「私も、最後まで見届けさせて下さい!」
博士の所有する車まで着くと、博士は春歌にそう言った。
「君の曲が、藍のあの歌がどんな結果になったのか、きちんと君自身で見なさい。それは藍の望んだことだろう?」
そう言われ、思い出す。
全部の力でこの歌を歌う。
そして、君をデビューさせてみせる。
そう、藍は言っていた。
助手席に身を預け、眠る藍を春歌は見る。
また涙が溢れそうになったが、ぐっと堪えて、わかりました、と頷いた。
「行っておいで。藍は、君をずっと、見守ってるよ」
その博士の言葉にまた藍を思い出す。
今度こそ涙を堪えきれなくなって、春歌は博士と、眠る藍に頭を下げて、会場へと戻った。
さよなら、美風先輩。
また、きっと…。
WinterBlossomは最優秀賞をもらい、春歌はシャイニング事務所で美風藍のパートナーとして正式にデビューとなった。
そして、藍の姿も、博士や如月愛音と共に、消えた。
数日、春歌は自室にこもったままである。
曲作りに没頭しているのだ。
だって、曲を作らなければ、何かをしていなければ、藍を思い出す。
藍を思い出せば、涙が溢れる。
涙は溢れたまま、ずっと止まらなくなるのだ。
そんなある日、春歌は事務所の会議室に呼び出される。
仕事の話だろうか。
思考を曲作りへと結びつける。
無理やりにでもそう考えないと、暗いモノがやってくるような気がした。
会議室の前に着き、ドアをノックする。
「失礼します…」
会議室には藍とグループを組んだ、寿嶺二、黒崎蘭丸、カミュや、藍のマスターコースを受けた翔や那月、他にも音也やトキヤ、聖斗、レンなど同期の者がいた。
「あれ、皆さん…」
「あれれ、後輩ちゃんも呼ばれたの?」
「あ、はい」
このメンバーを集めて、何をするのだろうか。ふと先輩達三人を見る。
普段であればその場にいたであろうはずの人がいない、という事実がまた春歌の中に暗いモノを呼び込んだ。
程なく、シャイニング早乙女、日向龍也、月宮林檎が入室する。
内容は美風藍について。
どきりとしたが、できるだけ表情を変えずに聞く。
美風藍は海外へ留学し、芸能活動を休止するという。
いつ帰るかもわからないので、復帰は未定、とのこと。
当たり前ですよね。だって、美風先輩はロボットだってこと知っている者はほとんどいない。
突然で驚いている中、話はそのことだけであったようで、重役三人は春歌を心配そうに少しだけ見つめ、言うだけ言って出て行ってしまった。
一人、また一人と次の仕事や、予定がある者たちは会議室を出て行く。
皆、一様に春歌を気にかけていた。
「七海…」
「七海さん…」
座り続ける春歌に声をかけたのは、来栖翔と四之宮那月だった。
彼らは藍のことを知っている。
「藍、止まった、んだな…」
翔のその核心を付く一言に抑えていたものが止まらなくなった。
涙が溢れる。
「美風先輩、最後に、バイバイって……」
私、最後まで笑っていられなかった。
だけど、先輩は泣いても笑っても
大好きだって。
藍のこと、藍への想いを途切れながらも話す春歌を何かが包む。
那月が涙を流しながら、春歌を抱きしめていた。
次いで、二人を翔が抱きしめる。
事情を知る者同士だからだろうか、春歌は藍がいなくなって初めて大きな声を上げて、何を憚ることなく泣いた。
デビューが決まり、仕事がとても増えた。
翔や那月のおかげで幾らか普通に振る舞えるようになった。
暗いモノはまだ時折襲ってくるけれど、いつまでも笑えないようでは人間としてダメだ。
そう思って日常を過ごしている。
もうすぐ美風先輩のあの人魚の映画が封切りされる。
友人の友千香と共に見に行こうと話をしている。
数日後、友千香のオフに合わせて買い物に出た。
その先で聴いた先輩の歌声。
そして、女の子たちの声。
ねえ、先輩。私、今、いなくなってから初めて先輩のことを身近に感じることが出来ました。
これが、先輩の言ってた“いなくなっても、ずっと見守ってる”ってことですか?
携帯電話に着信が入る。
相手は事務所の社長、シャイニング早乙女であった。
仕事の要請で、内容は藍の映画、『人魚の涙』のスタッフへの先行上映をこれからやるので、スタッフロールに名を連ね、藍のパートナーである春歌が直々に確認してこい、ということだ。
友千香に予定のキャンセルへの申し訳なさを感じつつ、別れて、急いで試写会場に向かう。
会場に着くと、映画の作成中に世話になったスタッフたちへ挨拶をし、席に着く。
程なくして、映画が始まった。
久しぶりの藍はスクリーン越しだった。
それに少し切なくなるけれど、映画に集中しようと春歌は一層スクリーンを見つめた。
映画を観る一方で、やはり藍のことを思い出す。
短い期間だったのに、色々あった。
そして、好きになった。涙が溢れる。
視界がぼやけようがなんだろうが、藍のことを一瞬でも見逃したくなくて、目元を拭うこともせずにスクリーンを見つめ続けた。
人間になっていた人魚の王子はヒロインのために声を出して歌って、泡になって消えた。
そうして、切なく終わるはずだった。
なのに。
これは何だろう…?
モノクロで海が映されている。
え、こんなの、知らない。
春歌以外のスタッフも騒然としている。
徐々に波の音が聞こえ、海が色づく。
桜のような白い花びらが画面の至るところで舞っている。
そして、聞こえた声。
「ボクはここにいる。君はいま、どこにいるの?」
あぁ。聞き間違うはずがない愛おしい人の声。瞬間的に理解した。
春歌は会場を飛び出す。
行き先はあの、海。
映画の撮影期間中、何度となく行ったあの海。大切な思い出のあの海。
先輩。先輩。先輩。
はやる気持ちを抑えきれない。
早く、早く、早く!
海に、青い人影。
彼は海に向かって1人で歌っていた。
キラキラ光る波の前、歌う姿は正しく王子様。
どこまでもクリアな歌声はさざ波のように響き渡る。
曲は私と彼の大切な曲。
上がる息を必死で整える。
先輩。
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